2026年8月22日

「排便したらトイレットペーパーに血がついていた」
「便の表面に鮮やかな赤い血がついていた」
「以前から痔があるので、今回も痔だと思う」
このような症状は珍しいものではありません。
排便時の鮮血は、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)などの肛門疾患が原因であることが多い一方、大腸ポリープや大腸がん、大腸炎などでも出血することがあります。
特に知っていただきたいのは、
「痔があること」と「大腸に病気がないこと」は別問題
ということです。
痔があるからといって、すべての出血を「痔からの出血」と判断することはできません。
排便時の出血で最も多いのは痔ですが……
日本国内で、肛門症状を主訴として受診した484人を調査した研究では、462人(95.5%)に痔疾患が認められました。
しかし、同じ患者さんの中から、
大腸ポリープ:63人(13.0%)
大腸がん:11人(2.3%)
が発見されています。
さらに、大腸ポリープが見つかった63人のうち、55人には痔疾患も併存していました。
つまり、診察で痔が見つかったとしても、
「痔があるから、この出血も痔だろう」
と自己判断してしまうと、大腸ポリープや大腸がんなどの病変を見逃してしまう可能性があります。
年齢が上がるほど大腸がんの割合は高くなります
肛門疾患を有する3,193人を調査した国内研究では、21人に大腸がん、95人に大腸ポリープが認められました。
原著の年齢別データを「40歳未満」「40~59歳」「60歳以上」に再集計すると、次のようになります。

年齢別にみた大腸がん発見割合
40歳未満:約0.1% → 40~59歳:約0.5% → 60歳以上:約2.0%
※肛門疾患患者を対象とした国内研究の原著データを年齢区分ごとに再集計した参考値です。一般人口や、すべての血便患者にそのまま当てはまる数値ではありません。
この国内研究では、年齢が上がるにつれて大腸ポリープや大腸がんが見つかる割合が高くなる傾向が認められます。
特に60歳以上では、この研究集団における大腸がんの割合は約2%でした。
若いから大腸がんではない、とは言い切れません
「まだ30代・40代だから大丈夫」
と思われる方もいらっしゃいます。
確かに、大腸がんは年齢が高くなるほど多くなる病気です。しかし、若い方にも発生します。
女性専門肛門科を受診した患者さんを調査した国内研究では、大腸癌・肛門管癌113例が発見され、癌発見率は、
50歳未満:0.20%
50歳以上:1.87%
でした。
さらに50歳未満で発見された癌のうち、80%が粘膜下層以深に浸潤した癌で、47.5%がStage III以上でした。
発見される割合そのものは高齢者より低くても、「若いから」という理由だけで血便を放置することはおすすめできません。
「鮮血だから痔」とは限りません
痔核からの出血では、
といった症状がみられます。
しかし、直腸やS状結腸など肛門に近い場所にできた大腸がんでも、赤い血が出ることがあります。
国内の女性専門肛門科の研究で発見された大腸癌・肛門管癌113例では、91.2%がS状結腸より肛門側に存在していました。
そのため、
血液が鮮やかな赤色だからといって、痔からの出血とは限りません。
血液の色だけで「痔の出血」と「大腸からの出血」を完全に区別することは困難です。
このような血便・症状がある方は一度ご相談ください
特に次のような場合は、痔だけと自己判断せず医療機関へご相談ください。
症状や年齢だけで大腸がんの有無を判断することはできません。必要に応じて大腸内視鏡検査を行い、大腸の中を直接確認することが重要です。

「大腸内視鏡検査では、大腸の粘膜を直接観察します」
大腸カメラなら大腸全体を直接確認できます
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸まで大腸の粘膜を直接観察する検査です。
出血の原因となる大腸がんや炎症性疾患などを確認できるだけでなく、大腸ポリープを発見できることも大きなメリットです。
大腸がんの多くは、大腸ポリープ(腺腫)から発生すると考えられています。
そのため、大腸カメラには「今ある大腸がんを発見する」という目的だけではなく、大腸がんになる可能性のあるポリープを早い段階で発見し、適切な治療につなげるという重要な役割があります。
痔があっても、一度大腸を確認することが大切です
排便時出血の原因として、痔核や裂肛は非常に多い病気です。
もちろん、出血した方すべてに大腸がんがあるわけではありません。
一方、国内の研究からは、痔疾患と大腸ポリープ・大腸がんが同時に存在する患者さんがいることもわかっています。
「昔から痔だから」
「鮮血だから大丈夫」
「まだ若いから大腸がんではないだろう」
と自己判断せず、出血を繰り返している場合には一度ご相談ください。
当院では、まず症状を詳しくお聞きし、必要に応じて肛門診察を行います。そのうえで、年齢、症状、既往歴、家族歴などを総合的に判断し、大腸内視鏡検査が必要かどうかをご説明します。
肛門と大腸の両方を適切に確認することが、大腸ポリープや大腸がんの早期発見につながります。
【参考文献】
1.樋口康彦ほか.肛門疾患3,193例を母集団とする大腸病変の拾い上げ.日本大腸肛門病会誌.1990;43:197-201.
2.板野聡ほか.肛門症状で来院した症例の検討―痔疾患か?癌か?―.日本大腸肛門病会誌.2004;57:324-328.
3.野澤真木子.女性専門肛門科外来における大腸癌の発見率および特徴.日本大腸肛門病会誌.2017;70:156-161.
※本記事で紹介している発見率は各研究の対象集団における数値です。一般人口における大腸がん・大腸ポリープの発生率を示すものではありません。